「オファー年収は620万円で提示させていただきます」
最終面接から3日後、エージェント経由でこの連絡が来たとき、私の年収は500万円でした。差額は120万円。自分の実力が3ヶ月で急に上がったわけではありません。段取りの差です。
転職で年収が上がった人の割合は58.5%、上がった人の平均アップ額は+72.7万円(doda 2025年11月版)。一方で、転職者全体の平均で見ると+19.2万円に縮みます(マイナビ2026年版)。つまり、何も考えずに転職すると+19万円、設計して転職すると+70万円以上。この差がどこで生まれるのかを、私の3ヶ月を時系列で振り返りながら説明します。
当時の私は入社7年目。仕事の評価は悪くなかったはずですが、昇給は年1万円ペース。このまま10年いても年収510万円か、と電卓を叩いた夜に転職を決めました。
ただ、最初の壁は求人検索ではありませんでした。「自分がいくらの人間なのか分からない」ことです。年収500万円は、市場で見て安いのか、妥当なのか。ここが分からないと、希望年収の欄に書く数字すら決められません。
この「値付け問題」を解決してくれたのが、エージェントの複数登録でした。
大手総合型、業界特化型、ハイクラス型。タイプの違う3社に同じ職務経歴書を出しました。返ってきた見立てはこうです。
同じ経歴に対して、80万円の幅。
もしA社だけに登録していたら、550万円を天井だと思い込んで活動していたはずです。エージェントの見立ては「正解」ではなく「その会社が持っている求人から見た値付け」にすぎません。複数の値付けを並べて初めて、580〜600万円という現実的な狙いどころが見えてきました。
この時点でやったことは登録と面談だけ。それでも、狙う年収が100万円変わりました。
書類を出し始めてから気づいたのですが、年収交渉の最大の武器は話術ではありません。複数の内定を同じ時期に持っていることです。
問題は、内定には有効期限があること。通常1〜2週間で承諾の返事を求められます。A社の内定を持ったままB社の最終面接が3週間後だと、武器になる前にA社の内定が消えます。
そこで、選考スケジュールの調整をエージェントに依頼しました。具体的には——
こういう調整を応募者本人が企業に直接言うと、印象を悪くするリスクがあります。エージェントなら「他社選考との兼ね合い」として事務的に通せる。ここは自力の応募にはない、エージェント経由の明確な利点でした。
結果、3ヶ月目の頭に2社の内定がほぼ同時に出ました。
第一志望の提示額は580万円。第二志望は600万円でした。
ここで私がやったことは1つだけです。エージェントに「第一志望に行きたいが、提示額は第二志望のほうが高い」と伝えたこと。交渉そのものはエージェントがやりました。
数日後に返ってきたのが、冒頭の620万円です。
自分で「もう少し上がりませんか」と言うのは、心理的にも立場的にも難しい。でもエージェントにとって年収交渉は業務ですし、報酬は決定年収の約30%が相場なので、あなたの年収が上がるほどエージェントも儲かる。利害が一致した相手に交渉を任せるのは、合理的な分業です。
ひとつだけ注意点があります。オファーレターが出た「後」の再交渉は悪手です。交渉材料(他社内定)は選考中から伝えておき、提示前に織り込んでもらう。後出しの上乗せ要求は、入社前から心証を悪くします。
私のケースを一般化すると、やることは5つです。
転職者全体の平均は+19.2万円。何も設計しないと、だいたいそこに落ち着きます。+100万円は特別な人の数字ではなく、段取りをした人の数字です。
Q. エージェントの利用にお金はかかりますか?
かかりません。報酬は採用した企業が払います。求職者は無料です。
Q. 3社も使うと連絡が大変では?
大変です。正直に言うと、活動期の平日はほぼ毎日どこかとやり取りしていました。ただ、この面倒さの対価が数十万円の年収差だと考えると、私はもう一度やります。連絡はメールを基本にして、電話面談は週1にまとめるのがコツです。
Q. 年収を上げやすい人の条件はありますか?
現職の給与水準が市場より低い人ほど上がりやすいです。中小企業から大手、低年収業界から高年収業界への移動は、同じスキルでも+50〜100万円の差が出ます。求人倍率が2.44倍(2026年5月時点)という売り手市場も追い風です。
年収120万円アップの内訳は、才能でも運でもなく、こう分解できます。
どれも、明日から真似できることです。まずはタイプの違うエージェント3社への登録から始めてください。
本文中の数値は、以下の一次情報を参照しています(最終確認: 2026年8月16日)。
この記事を書いた人: 白石 遼——自身の転職で年収120万円アップを経験。キャリアと働き方をテーマに、実体験ベースの記事を執筆しています。